日本のおうちは寒いのです

「寒さは、ヒトの体に大変な負荷を掛けるものである。」
・・・それは分かります。
冷たい北風に煽られて思わず「寒いっ!」と声に出してしまう時は、心臓も血管も、脳までも、
縮こまっているような気がしますからね。
実際に、寒さは、肺炎や脳卒中、心筋梗塞と、さまざまな病気のリスクを高めるだけでなく、
認知症の発症が早まるなど、様々な影響をもたらすということが、最近の研究によって、
目に見える形で示されるようになりました。

慶応義塾大学の伊香賀俊治教授は建築が専門なのですが、この10年ほどかけて、一般住宅の
部屋の温度と、健康との因果関係を調査しました。
その結果、ちょっと興味深いデータが浮上しました。
家族が集まるリビングルームの、真冬の平均室温を都道府県別に並べたら、最も暖かかった
のは北海道の19.8℃でした。逆に最も寒かったのは香川県の13.1℃。
・・・北海道では、気密性の高い「断熱住宅」の普及が進んでおり、外は寒くても家の中は
暖かいのだそうです。
一方の南、四国辺りでは、「風通しの良い」おうちが多いのかもしれませんね。
さて、問題は次のデータです。
昔から冬になると、病死者が増えることは知られていましたが、その増加率を調べたら、
北海道が10.3%と、全国で一番低いという結果になったそうです。
一番高かったのは栃木県の25.0%で、その平均室温は15.1℃でした。
部屋が一番寒かった香川県の死亡増加率は20.8%です。
どうですか、冬場に過ごす室温が低いと、亡くなる人が増えるということが分かったのですよ。

伊香賀教授によれば、メディアでも良く騒がれる熱中症で亡くなるのは、年間で1,000人ほど
ですが、実は、冬に呼吸器や脳、心臓の疾病で亡くなる人の方が圧倒的に多く、約20万人にも
上るのだそうです。
寒さで血圧が上がると、脳卒中などの高血圧性疾患のリスクが高まる。
血液がドロドロになって心筋梗塞につながる。
感染症に対する肺の抵抗力も弱まって肺炎になるわけです。
さらに、寒さは、「脳」を縮めてしまうということも分かってきました。
寒い家の住人と暖かい家の住人、それぞれ32人づつの「脳」を調べて、認知機能を司る部位の
「容積得点」を測定。
5年後の再測定の数値と比較したところ、暖かい方はほとんど変化が無かったのに対し、
寒い方は、3.1ポイントも縮んでいたのだそうです。
脳年齢で言えば、7歳くらい違うそうです!

問題は住宅の構造にあると言います。
日本の住宅のおよそ9割が、20年前の断熱基準すら満たしておらず、いくら部屋を温めても、
窓などから熱が逃げてしまっている。
しかも、多くの人々の認識自体が「冬は寒くて当たり前」というもので、熱を逃がさないため
の対策を打つ行動に、なかなかつながらないという事情もあります。
ヨーロッパでは19世紀の頃から、室内温度を適切に保つことが健康維持に欠かせないとして、
その推奨温度を「18℃」としてきたのだそうです。
WHO(世界保健機関)のガイドラインにも盛り込まれているのですが、日本でその基準をクリア
しているのは、北海道の他、関東以北の数県だけなのです。
しかしここに来て、日本でも「寒い家」が大きな問題となりつつあります。
その背景には社会の「超・高齢化」があります。
戦前までは、日本人の平均寿命は50歳以下だったのですが、今や人生100年時代です。
50歳には耐えられる寒さも、高齢になるほど難しくなる。

根本的な解決策としては、住宅の断熱改修を進めるしかありません。
せっかく部屋を温めても、その熱の60%近くが窓の隙間や表面を通して逃げていると聞きました。
比較的簡単にできるのは、窓を2重サッシにしたり、ペアガラスに変えたりすることですが、
マンションならともかく、一戸建ての場合はそれだけでは済まないでしょう。
家一軒をきちんと断熱改修するには、2~300万円は掛かるそうですから、これには国や自治体の
補助金が欲しいところです。
税金を使って個人の家の改修をするのかという問題もありますが、それで病気になる人が減って、
医療費が抑えられるのであれば良しと、したいではありませんか。


By Admin|2023年1月27日|2023年,ニュースリリース|


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