若返りの研究で、これまで若者の血を輸血する研究や抗老化ホルモン「クロトー」を動物に注射する実験などが行われてきました。
今回、若返りに関する数々の研究に共通する因子の特定につながる、興味深い3本の論文が2023年8月16日付のNature、Nature Aging、Nature Communicationsで発表されました。
【PF4】
カリフォルニア大学サンフランシスコ校バカール老化研究所の副所長であるソール・ヴィレダ氏のチームは、出血した際に血液を凝固させる機能を持つ血小板第4因子(PF4)が脳の機能を回復させることを突き止めました。
研究チームがPF4のみを老齢のマウスに投与したところ、若いマウスの血漿を注射した時とほぼ同じ効果が発揮され、老齢のマウスが学習力や記憶力を問うテストで優秀な成績を収めました。
研究チームは、PF4が老化した免疫システムを改善させ、それが脳の炎症を抑えることで認知機能を回復させているのではないかと推測しています。
ヴィレダ氏は「人間では70代に相当する生後22カ月のマウスを飼育していますが、PF4はマウスの能力を30代後半から40代前半まで若返らせました。」と話しました。
【クロトー】(抗老化ホルモン)
クロトーは、ギリシア神話に登場する運命の三女神のひとりであるクロートーにちなんで名付けられたホルモンです。
カリフォルニア大学のデーナ・デュバル氏は、PF4をマウスに投与する実験を行ったところ、老いたマウスと若いマウスの両方で学習力と記憶力の向上がみられたため、PF4には若い脳の認知機能の改善にも役立つ可能性が示されました。デュバル氏はまた、PF4が欠損したマウスもクロトーで認知力が向上することを確認しており、これはPF4以外にも認知機能を改善させる因子が存在している可能性を示しています。」
「理想としては、生物医学の最大の問題のひとつである認知機能障害に対し、副作用は最小限で効果が最大限となる治療法を複数用意できるようにすることです。」と述べました。
【運 動】
オーストラリア・クイーンズランド脳研究所のタラ・ウォーカー氏らの研究チームは、運動によりマウスの血液中にPF4が放出され、それが脳細胞の新生を促進させて認知力を改善させることを発見しました。
PF4は、運動により放出される情報伝達物質の一種としても知られています。以前の研究により、運動での認知機能の改善に関与していることが判明していましたが、今回の研究によりPF4単体を投入することで運動に匹敵する認知機能改善効果が確認されたことから、このメカニズムには血小板由来の情報伝達物質CXCL4、つまりPF4が関与していることが確かめられました。
この成果についてウォーカー氏は、年齢や脳の損傷により運動ができない人の認知機能改善に役立てられる可能性があります」と語っております。
近年、医学の発展は目覚ましいものがあり、「人生100年時代」などと言われておりますが、この先「人生110年時代」「120年時代」と言われる日も近いかもしれませんね。