温暖化の影響により、北極の氷や高緯度地域の永久凍土が融け続けているとか、そのせいで凍土の上に
建っていたビルが傾き始めたとか、北極の氷は別ですが、例えば南極大陸の氷雪が全部解けて海に
流れ込んだとすると、海面水位が65メートルも上昇するとか、これが過ぎると世界中で多くの土地が
海に沈むことになるとか、近い将来に起こり得る、恐ろしい話をよく耳にするようになりましたが、
人知を超えたレベルで起こる自然災害は、他にもこんなものがあります。
“氷河”は、標高の高い山岳地帯や、高緯度地域において、雪が降って凍り付き、解ける間もなく
さらに降り積もって、何万年もの間に堆積、圧縮されて出来る、氷の塊です。
これが、1年に10メートルから、場所によっては数百メートルも流れて動くので、“氷河”と呼ばれて
いるのです。
・・・個体である氷河がなぜ動くのかというのは、長い間、物理学者を悩ませてきた問題だそうです。
山岳地帯であれば斜面を下に向かって滑り落ちると納得もできますが、平原の広大な“氷床(氷河の
規模が大きいモノ)”については、氷塊自らの重みによる変形で動くのではないかと、考えられている
ようです。
また、底の部分の温度が比較的高く、薄い水の膜が出来ている氷河では、その膜の上を底滑りしている
と見られます。
ところで、その“氷河”が、湖を作ってしまうことがあります。
これは想像しやすいかもしれませんね。
山岳地帯にある氷河が、何万年もかけて斜面を削りながら流れ落ちた後には、深い谷が刻まれます。
そこに雪解け水や雨水が溜まって湖になります。中には氷河そのものにせき止められて出来る場合も
あります。
これら天然のダム湖を、“氷河湖”と呼んでいます。
・・・氷河湖は、時々溢れかえって大洪水を引き起こします。
規模や頻度は地理的条件によって様々ですが、例えばアラスカでは、ほぼ毎年、氷河湖決壊洪水が
起きているそうです。
近郊にある空港の滑走路は、その度に水浸しだそうです。
アイスランドでは、1996年に火山噴火が引き金になって、氷河が崩落して湖を溢れさせました。
決壊した時の水量は、1秒間に45,000立方メートルにも達したそうで、国道を破壊し、大変な被害を
もたらしました。
最終的にはこの周辺を流れた水量は、ミシシッピ川の流量を超えたという話です。
氷河湖決壊が起きると、ダムの決壊と同様、陸地の高い所から大水が襲ってくることになるので、
その威力の凄まじさは、想像を絶します。
ネパールでも、数十年前から氷河湖決壊による大洪水に見舞われていますが、1985年に起きた
ディグ・ツォ氷河湖決壊は、氷河湖決壊洪水についての詳しい調査研究の契機になったと言います。
ネパールの水・エネルギー研究局が1996年に行った調査報告では、ディグ・ツォ湖の他、標高4,100
mを超える位置にある4つの氷河湖について、洪水が起きる危険性があるとしています。
また、国際総合山岳開発センターと国際連合環境計画(UNEP)による最近の研究では、ネパール国内
だけでなく、隣接するチベットにも危険な氷河湖があり、これが決壊すればネパールにも相当な被害が
及ぶと予想しています。
さて、つい先日ですが、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に、氷河湖決壊の潜在的な影響
に特化した研究論文が掲載されました。
それによると、氷河湖決壊による大洪水は、内陸で「津波」が起きるようなものであり、それがもたらす被害は、どれだけ強調しても足りない程、甚大なものになるだろうとしています。
地球温暖化の影響もあって、氷河の融解が急速に進む中、危険はかつて無いほど高まっている。
この先、洪水が起きれば、世界中で、氷河湖から約48キロ以内に暮らす、1,500万人もの人々が巻き込まれる恐れがあり、その半分以上が、インド、パキスタン、ペルー、中国の4カ国に集中しているといいます。
・・・北米とヨーロッパ・アルプスについては、氷河湖周辺に住んでいる人口が少ないため、人的被害はそれほど多くはならない見込みだそうです。
日本でも、集中豪雨でダムが決壊すれば相当な被害になりますが、いずれコントロールの利かない自然が相手のこと、私たちには為す術もありません。
せめて温暖化を遅らせるために、脱・炭素の取り組みに協力していく他はないでしょうか。