ガウディが残した夢

サグラダ・ファミリア(聖家族教会)は、スペイン、バルセロナにある、複数の尖塔を擁するとても大きな教会です。設計者は、アントニ・ガウディ(1852~1926)。カタルーニャ出身の建築家です。市民の切なる願いから始まったサグラダ・ファミリアの建設ですが、費用はすべて、有志の寄付金で賄われてきました(現在は観光客の入場料も大きな財源になっています)。当時31歳のガウディが、設計主任に抜擢されたのは、着工から1年ほど経った頃。当初の計画から大幅に変更して、最終的には18の塔からなる壮大な群塔の構想を描き出しました。ベースは聖家族=イエス・キリストと、その両親(ヨセフとマリア)。完成すれば世界一高い教会となる“イエスの塔”、12面体のガラスの星を頂く“マリアの塔”、・・・父ヨセフの塔はありませんが、各所の彫刻にその姿が刻まれています。そしてそれを取り囲むようにして主要な弟子や福音史家たちの塔が並びます。

ガウディはもちろん、自分が生きている間にすべての建物が完成するとは思っておらず(実際の話、ガウディの生前に完成したのは1/4ほど)、後進のために一つ一つの塔の模型や、たくさんのスケッチを残していたのですが、残念なことにそれらの大半がスペイン戦争で焼失、あるいは散逸してしまいました。戦中戦後の混乱で中断していた工事が再開したのは、20世紀も半ばになってから。ガウディの遺志を継ごうと集結した建築家や彫刻家、ガラス工芸家など各方面の専門家たちは、わずかに残った資料と、ガウディが造った他の建築物の特徴から、ガウディの意図を推し量り、改めてその完成を目指すことにしたのです。
その再出発から60年余りを経て、今度は新型コロナのパンデミックでまたもや1年以上の中断を余儀なくされます。寄付も観光収入も途絶える中、残った資金を使って、何とか完成に漕ぎ着けたのが“マリアの塔”。2021年12月、新型コロナに苦しめられていた人々が見つめる中で、その頂上に据えられた「ベツレヘムの星」に、希望の光が灯されました。これが9つ目、45年振りの、新しい塔の完成でありました。
そして現在、11棟までが完成して、2026年には18棟すべてが竣工する予定となっています。144年の歳月をかけての、まさに世紀のプロジェクトです。

サグラダ・ファミリアはカトリック教徒の大切な場所というだけでなく、建築技術や美術の面においても重要な意味を持ちます。現在建設中の“イエスの塔”は、172mもの高さになるはずで、石のブロックを積み上げる建造物としては驚異的です。美しいアーチを描く天井や柱は、一体どのようにしてバランスを取っているのでしょう?・・・ガウディは、独自の実験を行って、その最適値を割り出したといいます。柱に見立てた複数のロープの両端を止めて中央に重りを付けて垂らす。重りの位置や重さ、ロープの長さを調整して自然な状態を探し、それを180度ひっくり返した形が、余計な負荷が掛からない、物理的に最も安定したアーチであると、考えたのです。今のように3Dプリンターで簡単に模型が造れる時代ではありませんから、どれほどの時間と手間をかけて図面を引いたのか、想像に難くありませんね。現在では一部に鉄筋コンクリートも使用しているそうですが、140年前の初期計画ではもちろん、すべて石積で設計されていました。ある意味では、現代を凌ぐ技術の高さと言えます。

ところでこのプロジェクト・チームには、日本人の彫刻家、外尾悦郎氏が参加していて、建物に組み込まれる彫刻などの装飾部分の総監督を務めておられます。外尾氏によれば、ガウディは、サグラダ・ファミリアの「美」を通して、偏見や差別のない世界、他者と平和に共存する世界を表したかったのではないかと考え、それを“イエスの塔”の内壁に、「境目の無い、色のグラデーション」で表現するアイディアを思いついたそうです。現在、タイル職人と協力して、理想の色を求めて試作を繰り返しているようです。

ガウディは、サグラダ・ファミリアの建設に人生の全てを掛けたようです。資金不足になれば自分の給料を断ることもあり、いつも質素な身なりで作業に集中していたそうです。当初は完成が300年後になると言われたほどの計画です。1日の終わり、ガウディは『神は完成を急がない。明日はもっと良い仕事をしよう』と言って、スタッフを励ましたという話が残っています。1926年6月、ミサに向かう途中で路面電車に轢かれて、ガウディは亡くなります。身なりの貧しさから浮浪者と間違われ、手当てが遅れたとのこと。その遺体は、サグラダ・ファミリアの地下聖堂に埋葬されているということです。


By Admin|2023年8月28日|2023年,ニュースリリース|


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